トライ&エラー

勝ち負け以外に大切なことがあります。
スポーツにおいては、勝敗がいちばん
わかりやすい価値です。
自分の子どものチームに勝ってほし
い、応援にすっかり熱が入り子どもたち
以上に勝てば大喜び、負ければがっかり、
これは自然な姿です。でも悔しさのあま
り、自分のチームに声をかけるばかりで
なく、相手チームに野次や文句を言う大
人の姿はまれではありません。子どもた
ちもきまりの悪い思いをしているような
ことさえ見受けられます。
ある大会で、こんな光景を見かけまし
た。あるチームが試合にリードしてい
ましたが、追い上げられ、負けそうに
なってきました。コーチが「ボールを外
にけり出せ!」と指示を始めました。
子どもたちは言われたとおりにボール
を外にけり出します。ボールが外に飛び
出したら、そのチームの親たちはわざ
とボールをよけ、相手チームの子どもに
遠くまで取りに行かせて時間を稼ぐと
いう徹底ぶりでした。
スポーツではベストを尽くすことが大
切。子どもたちには勝ってうれしい、負
けてくやしいという気持ちは大いに持っ
てほしい。負けん気をもって、目標をも
って、がんばってほしいと思います。し
かし、大人は冷静に、コントロールされ
た気持ちでいるべきです。
勝ちはもちろん成功経験につながり
ます。成功経験は子どもが育つ力となり
ます。
しかし、成功経験は試合での勝利だけ
からしか得られないものではありませ
ん。いろいろなことから得ることができ
ます。そして負けて学ぶこともたくさん
あるのです。
サッカーは、ルールは単純ですが、た
くさんの要素がからみあった、複雑なス
ポーツです。勝敗には偶然も運もかかわ
ります。そんなサッカーだからこそ、プ
ロセスや内容が大切になります。
勝利至上主義になって、手段を選ばず
勝とうと思えば、いろいろなやり方があ
るかもしれません。よく、「おまえはた
だけっておけばいい」「お前はそこにい
ればいい」などといった指示が聞こえて
きます。自分の子どもがボールを持った
ときに、ミスが怖くて「早くけって~!」
などと悲鳴のような声をあげるお母さん
もいます。子どもがせっかく日頃練習し
てきたことを試そうとしているのに、そ
れはないですよね?
私たちは、「トライ&エラー」という
言葉を使っています。まずトライ。失敗
したら次には成功するように。その積み
重ねです。負けや失敗を恐れるあまり、
トライをしない。これは子どもたちのサ
ッカーには無用です。
勝ってうれしい、負けてくやしい。
子どもが勝敗をうまく自分の中で消化
し処理できるように、勝ちも負けも、次
に向かってポジティブに自分の糧にでき
るように、大人はその手助けをしてあげ
るべきです。大人のほうがムキになって、
勝敗を適切に受け入れられないようでは
困ります。
「勝たないと部員が入らない」「親が
やめさせてしまうので、心ならずも勝ち
を重視する考え方をとらざるを得ない」
というクラブもあります。
指導者は、トータルでいろいろ考えて
指導をしています。子どもが最終的に成
長することこそが大切なのです。
ただし、指導者やクラブが勝利至上主
義で勝ち負けだけの尺度でいる場合も残
念ながらあります。
みなさんが考え方をしっかり持って、
ぜひ、そのような指導者やクラブをチェ
ックする機能となってください。